パニック障害と診断されるまで、この病気についてあまり知識がなかった。
せいぜい、ジャニーズの方が罹患されてニュースになったのを見たり、ここ10年くらい健康系の番組で何度か見たことがあった程度で、
だからこそ、自分の病気がパニック障害だなんて、初診までまったく思いもしなかった。
私が通っている病院では、初診の前、10枚綴りくらいの問診票を書いてくださいと言われ、人生根掘り葉掘り聞かれて(すげー)と思った。
最近悲しかった出来事:祖父の死
とか書いた。
先生と初めて会って、色々話したあと、
「病状がわかりました。ご自身の病名、何となく見当がつきますか? 心理学を勉強されてたということなので、もうお分かりかもしれませんが」
と言われてちょっと恥ずかしかった。全然わかってなかった。
うーん、何とか神経症とか、そういう系のやつですかね? うつ病ではないと思うんですけど…
とかごにょごにょしているうちに
「パニック障害です。ご存知ですか?」
と言われて、とても大きい声を出してしまった。
パニックっていうくらいだから、もっと取り乱して泣き叫んだりする系のやつを想像していた。
自分が日夜襲われていた地味な(?)過呼吸が、あれがパニック発作だとは思わなんだ。
しかし、発作に加えて交通機関に乗るのが怖い・ライブや講演を見ていて不安になる(広場恐怖というらしい)などの不安感もすべて、パニック障害の典型的な症状として説明がついてしまうということらしかった。
先生が私にも分かるように易しく説明してくれた内容によると、
①自律神経が乱れている
②ゆえに脳と身体のオンオフの連携がとれていない
③脳に分泌されるべき「大丈夫だよ~」と安心させる物質が出なくなる、または分泌量が極端に減る
④常に小走りの状態
というのが、パニック障害の概要であると理解した。
①②が引き起こすのが、前に書いた突然の失神であったり、
身体は寝ようとしているのに脳が興奮して、心拍数が異常に上がったり過呼吸になったりする発作。
③を解決するのが治療には一番の早道なので、安定剤を飲んでGABAという物質(チョコに入ってるあれ)を補うのが合理的です、という説明。納得。
気になったのが④の「常に小走りの状態」というやつだった。
これはつまり、交感神経が下がらなくなってしまっていることを意味する。
のんびりしていい時間なのに、交感神経がいつまでも優位で、休むことができない、ということ。
動物は、天敵と対峙して戦わなきゃいけない場面では交感神経が優位になっていて、この時お腹が痛くなっては困るので、腸が動かないようにできている。
パニック障害で食事が摂れなくなるのは、これと同じ理屈で腸が動いてないからだという。
こんな分かりやすい説明があるだろうか、先生、天才。めちゃくちゃ納得してしまった。
脳波検査と起立テストも受けた。
1分間に立ったり座ったりを繰り返し、そのあいだの脈をとるというもの。
結果は、座位から立ち上がるだけで、平均よりだいぶ脈が上がってしまっていた。診断:POTsあり。
つまり、一般に「立ち上がる」という動作に必要な分よりもかなり多いエネルギーを、日頃からいちいち消費してしまっているということだった。
だからあなたさんは常に疲れているんですよ、と。
これを聞いて以降、
会社の人や仲のいい人にパニック障害を説明するときは
「ずーっと小走りしてるみたいになっちゃう病気」とか言っていた。
みんなはふーんと言って理解していたように見えた。
だけどもう一つ、
この病気の恐ろしい点でかつ、当事者以外に決して理解されない点に、
"発作が起きると「このまま死ぬ」と思ってしまう"というのがある。
この感覚については"パニック"とは言い得て妙だなと思った。
そりゃ、過呼吸になったくらいで死ぬわけがない。冷静に考えれば分かる。
でも発作が起きると、あ、死んでしまう。と毎回必ず思う。
だから治まったあとも「また発作が来たらどうしよう」という恐怖が消えない。
一度、趣味でやっているバンドのライブ中に発作が来たことがあった。
正確には1部と2部の間の休憩時間。呼吸が苦しくなって、一人で帰ろうかとも思ったけど、
家までの道のりをタクシーにじっと座っていられる自信もなかった。それほど「死ぬかも」と思っていた。
帰るにも帰れず、発作で朦朧としながら弾いた本番のあの感覚…
曲が始まれば気が紛れて治まるかと思ったけど、全然治まらない。
次の休符で…息を吸おう…とか考えていたのか…もはや記憶がない。
死ぬかと思った。
今こうして笑い話として書けるほどになって本当によかったと思う。